【80代/女性】法定後見制度をご利用のケース
「家族だけでは支えきれない」から、社会的な支援へ
〜認知症・金銭管理・家族負担・施設生活を、成年後見人が支えた事例〜
事例概要
| 対象者 | 80代女性(後見開始当時85歳)/要介護2 |
|---|---|
| 家族構成 | 長女1名 |
| 生活状況 | 認知症の進行により在宅生活が困難となり、介護老人保健施設に入所 |
| 収入・資産 | 年金 月額約13万円/後見申立て時の預貯金はごく少額 |
| 相談のきっかけ | 介護老人保健施設職員から専門職へ相談 |
| 主な課題 | 認知症の進行、金銭管理困難、施設費未払い、長女の介護負担と金銭管理上の問題 |
相談前の状況
家族だけで抱え続けた結果、限界に
本人は認知症状が進み、仕事中の長女へ頻繁に電話をしたり、何度も自宅へ呼び戻したりするようになりました。深夜の徘徊や、自宅内でトイレの場所が分からなくなるといった状態もみられ、日常生活を一人で維持することが難しくなっていました。
長女は母親を支えるために仕事を辞め、通帳と印鑑も預かって金銭管理を担っていました。しかし、介護負担は次第に大きくなり、親子間で感情的な衝突が生じることもありました。ショートステイやデイサービスを利用しても在宅生活の継続は難しく、施設入所へと移行しました。
施設入所後も、本人には被害的な訴えや会話が成立しにくい場面、看護・介護への拒否がみられました。さらに、本人の預貯金が減少している一方で施設利用料が未払いとなっていることが判明し、「本人の財産を誰が適切に管理するのか」という課題が表面化しました。
この段階で見えていた課題
本人の認知症だけが問題なのではありません。家族が介護・金銭管理・契約・支払いを一人で背負い続けることで、家族自身も限界に達していました。法定後見が必要となる典型的な場面の一つです。
相談のきっかけと最初の対応
成年後見申立てへ ― 「家族に任せる」から「仕組みで支える」へ
本人は日常的な金銭管理を自ら行うことが困難で、長女も精神的に限界を迎えていました。そこで、家庭裁判所への成年後見申立てにつなげ、専門職が成年後見人として選任されました。
法定後見では、本人が後見人を選ぶのではなく、家庭裁判所が本人の状況や財産、親族関係などを踏まえて成年後見人を選任します。後見開始後は、本人の財産を本人のために適切に管理し、必要な契約や支払い、生活環境の調整を行っていきます。
支援の内容 就任直後に行ったこと ― まず「お金」と「生活」を整える
| 対応 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 財産の引継ぎ | 長女から通帳・キャッシュカード等の引渡しを受け、本人財産を後見人管理へ移行 |
| 金融機関への届出 | 銀行へ成年後見人の届出を行い、後見人による適正な口座管理体制を整備 |
| 未払い施設費の整理 | 滞納していた介護老人保健施設利用料を確認し、本人の財産から必要な支払いを実施 |
| 公的給付等の手続き | 特別弔慰金や特別定額給付金など、本人が受けられる給付について申請 |
| 本人との面談 | 施設を訪問して本人の様子を確認。長女を気に掛ける本人の言葉も把握 |
後見人は「家族を排除する人」ではない
成年後見人が財産管理を担うことで、長女は通帳管理や支払いの責任から離れることができます。一方で、本人が長女を気に掛けている気持ちは尊重し、親子関係そのものまで切り離すわけではありません。
施設の住み替え ― 本人の財産状況も踏まえて生活の場を考える
後見開始時、本人の預貯金は極めて少額でした。そのため、単に「よい施設を探す」のではなく、年金収入や施設費用、公的制度の利用可能性を確認しながら、継続して生活できる場所を検討する必要がありました。
後見人は関係者から情報を集め、転居先となる住まいを見学し、施設移転に伴う転出・転入の届出や後見登記上の住所変更などの手続きを行いました。生活の場を整えることと、法律・行政上の手続きを整えることを並行して進めるのが成年後見人の役割です。
関係者との役割分担
| 場面 | 福祉・介護・医療側 | 専門職(後見人・受任者等) |
|---|---|---|
| 日常生活 | 本人の心身状態、介護状況、生活上の変化を把握 | 必要な契約・支払い・財産管理を行う |
| 施設生活 | ケア・生活支援、状態変化の共有 | 施設費の支払い、契約・行政手続き、財産状況を踏まえた対応 |
| 住み替え | 本人に適した生活環境・介護サービスを検討 | 契約や費用面を確認し、転居・住所変更等を実施 |
| 家族対応 | 本人・家族の生活上の状況を共有 | 本人の利益を基準に財産管理を行い、家族の負担も整理 |
その後の変化・現在の様子
本人の最期 ― 成年後見は死亡によって終了する
令和5年2月、施設から本人が心肺停止状態であるとの連絡が入りました。長女にも連絡しましたが、早朝で直ちに施設へ出向くことが難しい状況でした。そのため、後見人は施設へ向かい、葬儀社の手配等について長女と調整しました。長女が生活保護を利用していたことから、福祉葬の可能性についても行政・葬儀社との確認が必要となりました。
ここで重要なのは、成年後見人の権限は本人の死亡によって終了するという点です。死亡後の事務を成年後見人だから当然に何でも行えるわけではありません。本事例でも、親族である長女の意向
や行政上の取扱いを確認しながら必要な対応を進め、家庭裁判所へ死亡の報告を行いました。
実務上の重要ポイント
「後見人がいるから、亡くなった後も全部任せられる」と考えるのは正確ではありません。身寄りのない方や親族による対応が難しい方では、生前から死後事務の担い手をどうするかも別途検討しておく必要があります。
ケアマネジャーがこの事例から得るべき5つの学び
家族がいる=支援できる、とは限らない
一人娘がいても、介護・金銭管理・仕事を一人で背負えば限界がきます。家族の有無ではなく、実際に支援を担える状態かを見ることが重要です。
施設費の未払いは「金銭管理の危機」のサイン
支払えるだけの年金等があるのに利用料が滞る場合、単なる支払い忘れではなく、本人の判断能力や家族による財産管理に問題が生じていないか確認する必要があります。
法定後見は本人だけでなく、家族の負担を整理することにもつながる
後見人が通帳管理・支払い・契約を担うことで、家族は金銭管理の責任から離れ、家族として本人に関わりやすくなります。
生活面の情報は福祉職、法的・財産面は後見人
本人の状態や施設での様子を最もよく把握するのはケアマネジャーや施設職員です。その情報と、後見人が把握する財産・契約情報を結び付けることで、現実的な支援方針を組み立てられます。
「もっと早くつなげられなかったか」という視点を持つ
家族が仕事を辞め、親子関係が疲弊し、支払い問題が生じてから初めて制度につながるのではなく、金銭管理や介護負担の変化が見えた段階で地域包括支援センターや専門職へ相談することが重要です。