【80代/単身/女性】任意後見制度をご利用のケース
「子どもを信じたい。でも、お金のことだけは心配」
〜判断能力があるうちにつなぐ、財産管理・任意後見の早期介入事例〜
事例概要
| 対象者 | 80代女性/単身・独居 |
|---|---|
| 家族構成 | 子ども3名(長女は横浜市、長男は三重県、次女は自宅の近くに居住) |
| 生活状況 | 介護サービスを利用しながら在宅生活を継続。身体状況は比較的安定しており、判断能力も十分にある状態 |
| 相談のきっかけ | 地域の相談会のチラシを手に、ご本人からケアマネジャーへ相談があった |
| 主な課題 | 近くに住む次女への金銭的な不信感、将来の相続をめぐる不安、誰にも言えない葛藤 |
| 利用した制度・契約 | 財産管理等委任契約、見守り契約、任意後見契約、遺言書 |
相談前の状況
「娘を疑いたくない」という親心と、お金への不安のあいだで
ご本人は、近くに住む次女について「普段からいろいろ助けてくれる」と感謝を口にされる一方で、「家に来ると、黙って物を持って帰ることがある」「以前入院したときにキャッシュカードを預けたら、自分の財布のように使われてしまった。返してと言ってもなかなか返してくれなかった」と、強いストレスを抱えておられました。
この段階で見えていた課題
「娘を疑いたくない」という親心と、「このままでは将来、子どもたちの間で相続をめぐってもめるのではないか」という先々の不安。そのあいだでご本人が深く悩んだまま、誰にも相談できずにいることが最も大きな課題でした。判断能力がしっかりしている今だからこそ、ご本人の意思で備えを整えられる時期でもありました。
相談のきっかけと最初の対応
相談会のチラシを手に、ケアマネジャーへ
ある日、ご本人が地域の相談会のチラシを持って「この相談会へ行っても大丈夫かな?」とケアマネジャーに尋ねられました。ケアマネジャーはホームページなどで主催者を確認したうえで、「信頼できそうですよ。一度相談してみられたらどうですか」と助言。この一言が、ご本人が自らの意思で将来の安心を手繰り寄せる大きなきっかけとなりました。相談の結果、ご本人の意思に基づいて、将来を見据えた4つの生前対策を同時に締結することになりました。
支援の内容
| 対応 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 財産管理等委任契約 | 日常的な支払いや通帳の管理など、現在の確実な金銭管理を専門職に委任する |
| 見守り契約 | 専門職が定期的に訪問・面談し、生活状況や健康状態を確認する |
| 任意後見契約 | 将来、認知症などで判断能力が低下したときに備える |
| 遺言書 | 将来、子どもたちの間で相続紛争が起きるのを防ぐ |
| 毎月の訪問と報告 | 現金や通帳の管理はすべて外部の受任者が担当。毎月訪問して生活状況の確認、通帳確認、必要な支払いの代行、財産状況の報告を行う |
連絡ノートで日常の変化を共有する
ケアマネジャー、ヘルパー、受任者は「連絡ノート」を活用し、日頃から体調の変化、サービスの状況、金銭面の変化、気になる様子などをその場で共有しています。必要に応じて電話でも密に情報交換を行っています。
関係者との役割分担
| 場面 | 福祉・介護・医療側 | 専門職(後見人・受任者等) |
|---|---|---|
| 日常生活 | 訪問時に気づいた体調やサービスの状況、気になる様子を連絡ノートに記録して共有する | 毎月訪問して通帳を確認し、必要な支払いを代行。財産状況をご本人へ報告する |
| 入院時 | 煩雑な手続きに追われることなく、退院後の生活再開に向けた介護サービスの調整に専念する | 病院との連絡調整、入退院の手続き、入院費の支払い、必要書類の手続きを一手に担当する |
| お金の不安に気づいたとき | 日頃の関わりから金銭的な不安や家族関係の変化に気づき、受任者へ伝える | 事実を確認し、契約にもとづいて必要な対応をとる |
財産管理や法的な手続きを外部の専門職が担うことで、ケアマネジャーは生活支援やサービス調整という、本来もっとも力を発揮できる業務に集中することができました。
印象に残ったエピソード
「この相談会へ行っても大丈夫かな?」の一言
ご本人がチラシを手に尋ねられたとき、ケアマネジャーは契約を勧めたわけでも、「ご家族で話し合ってみては」と流したわけでもありませんでした。主催者を自分で確かめたうえで、信頼できる窓口として背中を押した。それだけのことが、長いあいだ誰にも言えずにいた不安を動かす転機になりました。小さなサインを受け止めて適切な相談先につなぐことこそ、ケアマネジャー本来の役割だと実感した場面です。
その後の変化・現在の様子
「子どもにお金を預けなくても安心」
現金や通帳の管理をすべて外部の受任者が担う体制が整ったことで、「子どもにお金を預けなくても安心」という環境ができました。ご本人の精神的な負担は大きく軽減され、家族に依存しすぎない健全な関係を保ちながら、在宅での生活を続けておられます。遺言書も整えたことで、将来の相続への不安もやわらぎました。
この事例から伝えたいポイント
判断能力があるうちの「早期介入」が効く
ご本人は認知症ではなく、判断能力が十分にある段階でした。だからこそ、ご本人の本当の意思を反映した、納得のいく契約を結ぶことができました。
「契約の勧誘」ではなく「相談先の紹介」が役割
ケアマネジャーが法律の専門知識を持ったり、契約を勧めたりする必要はありません。小さなサインを受け止めて、信頼できる専門職の窓口につないだこと自体が、重要な相談援助・連携の役割です。
金銭管理をしなくても「気づき」で守れる
ケアマネジャーは利用者の財布や通帳を預かる立場にはありません。しかし、日頃の関わりから金銭的な不安や家族関係の歪みにいち早く気づける位置にいます。気づいたときに専門職へバトンを渡すことが、財産と尊厳を守る大きな一歩になります。
専門職との分業で、本来の業務に集中できる
財産管理や法的な手続きを外部の専門職が担うことで、ケアマネジャーは生活支援やサービス調整という、自身がもっとも強みを発揮できる本来の業務に力を注ぐことができます。