【70代/独身/男性】任意後見制度をご利用のケース
支援を拒否していた男性が『ありがとう』と言えるようになるまで
〜任意後見人とケアマネジャーの強固な連携がもたらした生活変容の軌跡〜
事例概要
| 対象者 | 70代男性/単身・独居 |
|---|---|
| 家族構成 | 離婚歴あり。子ども2名とは長期間音信不通 |
| 生活状況 | 在宅でひとり暮らし。聴力の低下があり、意思疎通に時間がかかる。訪問介護を利用 |
| 相談のきっかけ | 入院を機に、病院の地域連携室から相談が寄せられた |
| 主な課題 | 強い人間不信による支援拒否、多職種連携の不在、孤立のリスク |
| 利用した制度・契約 | 任意後見契約、遺言、死後事務委任契約 |
相談前の状況
支援者を次々に替えるほど、人への不信が強かった
支援開始当時、ご本人は支援者への不信感がとても強く、ヘルパー事業所やケアマネジャーの交代を何度も繰り返している状態でした。聴力の低下も重なり、意思疎通を図ること自体が難しい状況にありました。「訪問看護は不要」「今のヘルパーもケアマネも気に入らない」と強い拒否を示されていました。
この段階で見えていた課題
ご家族との交流もないため、「誰がこの方を支えるのか」という担い手の不在が、最も大きな課題でした。支援を拒まれたままでは、介護も医療も入れず、万一のときに気づく人がいないまま孤立が深まってしまいます。
相談のきっかけと最初の対応
制度を当てはめる前に、本音を聴くことから始めた
まずは「今のケアマネジャーとは合わない」「ヘルパーも嫌だ」というご本人の本音を、否定せずに聴き取りました。制度を形式的に適用するのではなく、「ご本人を中心とした支援チームをつくること」が最優先だと判断しました。相性をいちばん重視して、信頼のおけるケアマネジャーへの担当変更を依頼し、あわせてヘルパー事業所もご本人の特性に合うところへ変更しました。この環境の調整が、その後の支援の大きな転機になりました。
支援の内容
| 対応 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 支援チームの組み直し | 相性を重視してケアマネジャーの担当を変更し、ヘルパー事業所も本人に合うところへ変更した |
| 定期訪問 | 月4回程度の訪問から開始。必要に応じてケアマネジャーにも同行を依頼し、根気強く関わり続けた |
| 訪問連絡ノートの設置 | 本人宅に専用の連絡ノートを常備。訪問した各職種(ヘルパー・訪問看護・ケアマネジャー等)が気づいた生活の変化をその場で書き込み、共有している |
| 緊急連絡カードの携帯 | 免許証サイズのカードを常に携帯していただいている。任意後見受任者・ケアマネジャー・緊急連絡先を明記し、万一のとき発見者がすぐ連携できるようにした |
| 将来(死後)への備え | 死後事務委任契約を事前に締結。病院へのお迎え、火葬・葬儀の手配、行政手続き、家財整理までを一貫して対応できるようにしている |
情報共有をデジタルで行う方法もあります
別の事例では、関係者(ケアマネジャー・ヘルパー・訪問看護・後見人)による専用のLINEグループを活用しています(ご本人の同意を得て、個人情報の取り扱いを徹底したうえで運用)。電話よりも早く、写真で状況を見せ合えるため、支援のスピードと精度が大きく上がりました。
関係者との役割分担
| 場面 | 福祉・介護・医療側 | 専門職(後見人・受任者等) |
|---|---|---|
| 日常生活 | 訪問時に気づいた生活の変化を連絡ノートに記録し、共有する | ノートの内容を確認し、契約・支払い・手配が必要な事柄に対応する |
| 入院時 | 現場での初期対応と救急車の要請。ヘルパーと連携し、自宅から着替え等を病院へ届ける | 病院へ直行し、入院手続き、入院生活に必要な物品の購入・手配などの事務的対応を行う |
| 退院時 | 在宅へ戻った後の介護サービスを調整する | 退院手続きと入院費の精算、自宅までの同行を行う |
| 住まいのトラブル | 「家が雨漏りしている」など、生活上の困りごとに気づいて連絡する | 修繕業者の手配と費用の支払いを行う |
それぞれが強みを活かして役割を分担することで、ご本人はパニックになることなく、安心して医療を受けることができました。退院後も地域全体で支える在宅復帰のかたちを実現できています。
印象に残ったエピソード
「歯医者について来てほしい」と言われた日
ある日、ご本人から「歯医者について来てほしい」と依頼がありました。厳密には職務の範囲を超える部分もありましたが、信頼関係をつくる大切な場面だと考え、同行することにしました。診察のあと、歯科医師から「先生(後見人)も忙しいでしょうから」と声をかけられたとき、ご本人が深く納得した表情を見せられました。これを境に、支援者への信頼がさらに強いものになりました。
その後の変化・現在の様子
「ありがとう」と言える関係になりました
すぐに結果が出たわけではありませんが、関わり続けるなかで頑なだった態度に少しずつ変化が見られ、支援への拒否感がやわらいでいきました。現在は安定して元気に生活されており、ご本人から「ありがとう」という言葉が出るようになっています。死後事務委任契約まで備えがあることで、ケアマネジャーにとっても「キーパーソンがいないなか、亡くなった後どうすればよいのか」という不安と負担が解消されました。
この事例から伝えたいポイント
制度ではなく「顔の見えるチーム」が人を支える
どれほど優れた法制度があっても、制度の枠組みだけで孤立した高齢者を支えきることはできません。実際に支えるのは、顔の見えるチームです。
相性を最優先にした環境調整が転機になる
「合わない」という訴えを我慢していただくのではなく、担当や事業所を替える判断をしたことが、支援が動き出すきっかけになりました。
情報共有の仕組みを先につくっておく
連絡ノートや緊急連絡カードのように、誰が訪問しても同じ情報にたどりつける仕組みがあると、小さな変化を早い段階で拾うことができます。
緊急時の役割分担をあらかじめ決めておく
急な入院のときに「現場の対応は介護側、手続きと手配は後見人側」と決まっていたことで、迷いなく動くことができました。
死後の備えは、支援者の不安もやわらげる
死後事務委任契約を結んでおくことは、ご本人の安心だけでなく、身寄りのない方を支える介護・医療の関係者の負担を軽くすることにもつながります。